うどん小話 その百四十六 箸(パート3)
古事記の中で、スサノオノミコトが出雲の国でヤマタノオロチを退治し、"天ノムラ雲剣"を得たという話がありますが、この中で上流より箸が流れ下るのを見て、上流に人ありきと推察したとあります。古事記(712年)・日本書紀(720年)が書かれた時代には一般の人々も箸を使っていました(前ページ参照)。この時代から食事にかかわる道具類の中で箸だけは特別の扱いを受けていました。
今の時代でも、家庭の中で箸だけは各自の物を持っているはずです。スプーン・フォークなどは個人に属することはなく、たぶん世界中で日本だけに見られる奇妙な風習だと思います。
現在の皇室でも、ご誕生日から百十九日目に当たる「お箸初の儀」(おはしぞめの儀)が行われます。一般の「お食い初め」にあたるものです。
小豆粥に浸した楊箸(やなぎばし)を口につける儀式で、白木の三方の上には、丈夫な歯が生えてくるようにという願いをこめて金頭(かながしら)という魚と青石が供えられています。
このように箸を大切に扱う習慣は、古代より「神との共食」という文化があったからではないかと思います。
皇室では大嘗祭で神との共食をする儀式があり、一般にも氏神さまの祭りの前日、または後日に直会(なおらえ)という共食儀礼があります(小話百十四参照)。
また、正月に使われる祝い箸の両先が細く削ってあるのは、神との共食を表すと考えられています。
箸や茶碗は、神といっしょに食事をするという観念のもとにあって神聖視され、現代まで続いているのでしょう。
お箸は神さまが教えてくれた、チョットすてきな小道具です。
まだまだ、箸の話は続きます。